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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7035号 判決

原告 株式会社谷田川商店

右訴訟代理人弁護士 尾崎憲一

右復代理人弁護士 榎赫

被告 巴山秀男こと

季相台

右訴訟代理人弁護士 風早八十二

同 池田真規

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告は原告に対し金三四四、五三七円およびこれに対する昭和四〇年八月一日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

被告は訴外日本通信土木工事株式会社の振出した別紙手形目録記載の約束手形二通を原告に対し拒絶証書作成義務免除の上原告に裏書譲渡し、原告はこれが所持人となり右目録1記載の手形を昭和四〇年三月一〇日2の手形を同年同月二日に各支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶された。しかるところ、その後1の手形につき同年三月二〇日金六〇、五五〇円同年五月一九日金五八、六六〇円および金一一、五八九円2の手形につき同年三月二〇日金三四、六〇〇円同年五月一九日金三三、五二〇円および金六、五九四円の支払を受けたので原告は被告に対し1の手形金残金二一九、二五一円2の手形金残金一二五、二八六円の支払について、昭和四〇年七月末日まで支払を猶予したから、右残金およびこれに対する昭和四〇年八月一日以降右完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告は主文同旨の判決を求め次のとおり答弁並びに抗弁した。

被告が原告主張の約束手形に裏書し原告から割引を受けた事実は認めるもその余の事実は不知である。本件手形の振出人である訴外日本通信土木工事株式会社は昭和三九年一二月二五日倒産し、その後開かれた債権者会議の決議により原告は本件手形金の一部支払を受け、残額は放棄したから、被告に対しても手形金の請求はできない。

原告は訴外会社が倒産し、原告は本件手形債権の一部の支払を受け残債権は右訴外会社に対する関係において放棄した事実は認めるも、これにより、被告に対する請求権をも消滅せしめる趣旨で放棄したのではない。〈証拠省略〉。

理由

被告が原告主張の各約束手形を割引のため原告に裏書譲渡したこと当事者間に争いなく、原告はこれが所持人となって呈示期間内に支払呈示したところ拒絶せられたことは、〈証拠〉によってこれを認めることができる。

よって、被告の抗弁について判断する被告は原告は手形所持人として本件各手形金の一部を振出人たる訴外日本通信土木工事株式会社から支払を受けて残金の請求権を放棄したと主張し、右放棄とは債務免除の趣旨と解すべきところ、原告は原告が被告主張のとおり手形金の一部支払を受け残金については右訴外会社に対する関係では放棄したことを認めたが被告に対する請求権は留保せられているという。もし、原告において右放棄を認めるとの趣旨が免除であることを認めるものとするならば主債務者たる振出人に対する免除は裏書人に対する請求権を留保する意図の下になされたと否とに拘らず手形債権は消滅し、もはや裏書人に対する遡求権をも有しないこととなるのであるが、原告の右主張は原告の振出人に対する請求権を行使しないとする趣旨換言すれば任意債務とする趣旨と解せられないこともない。そこで、被告主張の趣旨での放棄即ち免除があったか否かについて検討してみる。

〈証拠省略〉によれば、次の事実を認めることができる。

前記訴外会社は昭和三九年一二月二〇日倒産し、原告はその債権者会議の議長となったのであるが、原告会社は本件手形金債権をも含めて右会議に債権者として弁済のための分配に与った。ところで本件手形は原告は右会議において被告の訴外会社に対する労務賃金債権支払のために振出されていたものであることを主張し、その結果労務賃金債権として取扱われ他の一般材料費等の債権より高率で分配を受けたところ、一方被告は将来裏書人としての遡求義務を負担しないという諒解の下に一旦債権として届出た本件各手形の原因となった労務賃金債権の届出を取り止めたこと。そして、債権者会議は最終会議において訴外会社再建の為には当時分配し得なかった残存債権は債務免除する旨の決議をし原告もこれを諒承したこと。

以上の事実が認められるのであって、右の事実によれば、原告に対する訴外会社の債務を任意債務とするにとどめる趣旨で右決議がなされたものと解することはできないから、原告は本件手形債権を免除したものというのほかはない。

尤も、原告は被告が裏書責任を認め昭和四〇年七月末日まで猶予を申出でたともいうのであるが、右申出により発生した新たな債務を主張するものとは解せられず、また右猶予の申出は前認定の免除の後になされたと認めるに足る証拠もない。しかして免除前になされた申出をもっては前記判断を左右するものではない。

よって被告の抗弁は理由があるから、原告の本訴請求は理由なく失当として棄却する。〈以下省略〉。

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